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2025年4月20日 3:00:00

アウグスティヌスの青年期の家庭生活と母子関係が、三位一体の教説に及ぼした影響についての考察

堀 有伸(ほりメンタルクリニック)

​抄録本文

 アウグスティヌス(354-430)は、古代キリスト教を代表する思想家であり、その神学は個人的経験と密接に結びついている。本研究では、彼の青年期における母モニカとの母子関係、そして事実婚的な家庭生活が、三位一体論の形成にどのように影響を及ぼしたかを病跡学的視点から考察する。
母モニカは敬虔なキリスト教徒として、息子の回心を祈り続けた。『告白』には、信仰に基づくモニカの献身と、真理探究の過程で異なる道を進むアウグスティヌスとの緊張関係が詳細に描かれている。この母子間の複雑な応答は、否定神学的思考、すなわち人間の認識を超えた神の超越性を理解する基盤を形成した可能性がある。
さらに、17歳から始まった事実婚的な家庭生活と息子アデオダートゥスとの親密な関係は、具体的で情感に満ちた愛の経験をアウグスティヌスにもたらした。この家庭は彼にとって愛の実体験の場であったが、宮廷勤務のために解消を余儀なくされる。この喪失体験は、後の彼の回心につながるのと同時に、三位一体論における愛の相互内在性の理解を深める契機となった。
三位一体論におけるアウグスティヌスの神学的特徴は、母子関係による超越的理解と、家族関係を通じた愛の経験の双方が高次に統合されたものである。彼の解釈において、聖霊は父と子の間の相互愛として位置づけられ、二者間を超えた三者関係の動的な構造が示唆されている。この構造は、個人の心理的経験が神学的思索をどのように形作るかを示すものとして、現代の多様な家族関係や社会構造の理解に新たな視座を提供する。
本発表は、アウグスティヌスの神学思想における個人的経験の影響を病跡学的アプローチで明らかにする試みである。この分析は、彼の時代にとどまらず、現代社会における心理的支援や家族関係の在り方を再考する示唆をも提供する。

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