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2025年4月19日 4:00:00

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セッション2

14歳で自死した関野昴君の文芸作品の検討

中山 浩(川崎市南部児童相談所)

​抄録本文

 近年、児童期における自殺者数が増加しており、精神科医にとどまらず、社会においても関心が高まっている。一方で、こどもの自殺は所属する学校や家族に衝撃を与え、十分な原因や防止策の検討が行われないことが多い。そのため、様々な形で残された作品などから心理状態を検討することは、重要なことと思われる。
1.関野昴君について
今回検討対象とした関野昴君は、1989年8月8日に群馬県で生まれ、2003年8月24日夕刻、鉄道自殺をしたとされている。
彼に関しては、膨大な文芸作品が残され、これを彼の死後に両親が3冊の単行本として公刊している。内容は文芸的素養の乏しい発表者には、分類することも困難であるが、哲学的内容の記述、推理小説、筋を追うことの困難な程度に抽象化され散文詩とでもいうべき文章、といえる。ともに公立学校教員の両親の元で一人っ子として出生し、愛情をもって養育され、家族旅行にも多数参加し、死の前にはオーストラリアでの研修旅行も経験するなど、恵まれた養育環境であったといえる。学校生活でも目立った問題はなく、精神疾患の治療歴もない。前書きなどで、父親は昴君の死の原因についての意見を述べているが、結論として何ら思い当たる原因がわからないとしている。
2.文芸作品の検討と考察
 膨大な哲学的検討の価値は門外漢には困難であるが、14歳の少年がこのような文章を書いたという事実そのものに驚愕させられる。また一歩距離を置いてみると、このような抽象的な思考は、まだ未熟な心性を残したであろう昴君の心理的負担を強め、このような地点に到達した後、何を目指すかについて悩み、絶望感に陥った可能性はうかがわれる。発表者の意見としても、昴君に明白な精神疾患や発達障害の疑いは指摘できない。こどもの自殺に対し、精神科医療の関与が社会的に求められているが、昴君の事例は、文学者や社会科学者からのこどもの自殺の検討が必要であり、さらにこのような事例にどのような防止策が考えられるか、新たな視点からのアプローチの必要性を示しているように思われる。

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