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シンポジウム1

「健康生成的な対話について考える」

4月19日(土)16:00〜18:00

対話の健康生成を実践する──自助グループ、オープンダイアローグ的対話実践、当事者研究、当事者批評

横道 誠(京都府立大学)

★★プロフィール★★

 京都府立大学文学部准教授。文学博士。専門は文学・当事者研究。1979年、大阪府生まれ。単著に『みんな水の中』(医学書院)、『創作者の体感世界』(光文社新書)、『「心のない人」は、どうやって人の心を理解しているか』(亜紀書房)、『〈逆上がり〉ができない人々』(明石書店)など。共著に『酒をやめられない文学研究者とタバコをやめられない精神科医が本気で語り明かした依存症の話』(太田出版)、編著に『ニューロマイノリティ』(北大路書房)などがある。

 本発表は、著者が実践してきた自助グループ活動と研究活動についての報告を、「対話の健康生成」という観点に照らして論じる。著者は、自閉スペクトラム症、ADHD、アルコール依存症の診断を受けた経験に依拠して、現在合計10種類の自助グループを運営している。これらのグループでは、当事者研究やオープンダイアローグ的対話実践などをつうじて、精神疾患などの当事者の孤立感の軽減、自尊心の向上、相互支援を促進する場をボランティア活動の枠組みで提供している。
 日本の北海道にある浦河べてるの家で生まれた当事者研究では、参加者が「苦労」の仕組みを当事者仲間と共同で研究し、問題の外在化(当事者からの切りはなし)を通じて、問題を新たに捉えなおすプロセスが重視される。この取りくみは、当事者間の協働によって生きづらさを軽減し、ケア的活動がセラピー的な健康生成を生みだすと言う効能をもたらしている。
 フィンランドの西ラップランドの街トルニオのケロプダス病院で生まれたオープンダイアローグでは、対話そのものを重視し、治療は副産物として位置づけられる。この方法論は、ポリフォニー(多声性)を基盤とし、多様な声が響きあう空間での対話が、参加者の自己理解と共進化を促進する点に特徴がある。この対話に参加することで、ケア的な活動がセラピー的な健康生成を実現させる。
 発表者は最初の単著単行本『みんな水の中──「発達障害」自助グループの文学研究者はどんな世界に棲んでいるか』(医学書院、2021)を出版してから、4年弱のうちに30冊近くの著作を刊行してきた。その執筆活動は自助グループでの実践と密接に関連している。発表者は著書に、当事者研究で醸成された当事者同士の共同研究の成果を盛りこみ、当事者仲間に対するかずかずのインタビューを掲載している。オープンダイアローグ的対話実践によって学んだ多声的な構成を通じたポリフォニーを著述のレベルで実現しようと企て、それが読者の心身に健康生成の作用を促すように狙っている。
 こうした著述上のアプローチは、文学や芸術を媒介に当事者の視点を提示する「当事者批評」(斎藤環が命名)という新しいジャンル概念のもとに進められている。本発表では、以上のさまざま問題系について報告していく。

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