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シンポジウム1

「健康生成的な対話について考える」

4月19日(土)16:00〜18:00

臨床と地域における対話の実践と健康生成

孫 大輔(鳥取大学医学部地域医療学講座)

★★プロフィール★★

 2000年東京大学医学部卒。腎臓内科、総合診療・家庭医療を専門として勤務した後、2012年より東京大学・医学教育国際研究センター講師。2020年4月より鳥取大学医学部地域医療学講座所属。現在、地域医療に従事しながら学生・専攻医の教育にも携わる。これまで医療をテーマとした短編映画を3本制作した経験がある。
 著書に『対話する医療──人間全体を診て癒すために』(さくら舎、2018)、『臨床と宗教―死に臨む患者へのスピリチュアルケア』(南山堂、2023)、『ダイアローグ〈対話〉のはじめかた:医療・福祉にかかわる人のための対話哲学レッスン』(医歯薬出版、2024)など。

 「対話」という言葉は、単なる「コミュニケーション」とは異なる含意を持つものであり、その背景となる理念や目的にはいくつかの類型が存在する。医療現場においても、「医療コミュニケーション」とは異なる形で「対話」が行われる場面があり、その代表例として倫理ケースデリバレーション(熟議)やオープンダイアローグが挙げられる。
 熟議(deliberation)とは、複数の人々が集まり、特定の問題や決定について意見や情報を共有し、慎重に検討しながら解決策を模索するプロセスである。熟議的アプローチの核心には、公正で包括的な議論を通じて合意形成を目指す理念がある。その背景には、J・ハーバーマスの「対話的合理性」の考え方が存在する。
 一方、フィンランド発祥のオープンダイアローグに代表される「ダイアローグ(dialogue)」は、ミハイル・バフチンの「ポリフォニー」の理念を中核に据えている。ポリフォニーとは、多様な視点や「声」を融合させることなく、それぞれを尊重する姿勢を指す。また、オープンダイアローグには「社交ネットワークの視点」や「不確実性に耐える」といった原則が含まれている。この方法論は、当事者の不安や心配に対し、多様な視点から支えを提供し、それを緩和することを目的としている。
 本講演では、演者が医師として取り組んできた臨床現場における対話(ダイアローグ)の実践と、地域における対話活動の事例を紹介する。これらの特徴は、対話を通じて双方が変化し得る可能性(可塑性)と、対等な関係性に基づいている点である。また、対話においては、人間を「多声的」かつ常に多様な解釈に開かれた存在として捉える必要がある。オープンダイアローグの理念である「対話の目的は対話そのもの」という対話主義の考え方が示すように、対話は治療行為にとどまらず、人間関係と言葉の網の目によって支え合い、健康を生み出す営みであるといえる。

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